強迫性障害とは?
「やめたい」、「意味がない」とわかっていながら、ある考えがいつまでも頭から離れない、ある行動を繰り返さないと気が済まないといった症状が出る脳の病気です。
症状には「強迫観念」と「強迫行為」があります。「強迫観念」とは繰り返し、繰り返し心を占めてしまう不快な考えや衝動のことです。「強迫行為」とは強迫観念を打ち消すための行為で、自分の意思に反してやっている場合が多く、強迫儀式とも呼ばれます。
具体的には次のようなものがあります。
● 手を洗うのがやめられない。
● 不用なものを捨てられない。
● ドアのノブや大勢の人が触るものに触れない
● 鍵をかけたか、ガスの栓を締めたかなど確認を何回も繰り返す。
● 必要ないのに数を数えてばかりいる。
● 整理整頓に極端にこだわる。
これらは誰にでも起きることがありますが、そのために日常生活や社会生活に支障が出てくるようなら、それは強迫性障害という脳の病気のためかもしれません。
症例その①
Aさんは電車のつり革に触れることに恐怖を感じます。以前に「つり革を握って、その手で目をこすった人が失明した」と噂に聞いてからです。その為、いつもつり革の握りの輪を半回転させ、多分最近誰も触れていないと思われる箇所を握るのです。自分でも気にしすぎでなぜこんなことまでしないといけないのかと違和感を感じ、困っています。
症例その②
Bさんは鍵を閉めたかどうかが気になって仕方がなく、通常でも4、5回は鍵を閉めた後、ガチャガチャと閉めたかどうかドアノブを押し引きしてしまいます。ひどい時は、朝出勤途中にもう1度家に戻り鍵をかけたかの確認をしてしまいます。今まで1度も鍵をかけ忘れたこともなく、自分でもやりすぎでひどいと困っています。
症例その③
Cさんは本棚の本がきっちりと順番どおりに整然と並んでいないとスッキリせず、少しでも順番の並びが違ったり、並びが乱れているときっちりと並び変えずにはおれません。その為、他人が本棚に近づいたり、触ったりするのを不快に感じます。自分でもバカバカしいことを気にしていると思っていますが、やめられません。
症例①②③の解決策
上記の症例のように理屈では、おかしいとわかっていても、気になって仕方がないのがこの病気の特徴です。日常生活や社会生活に支障が出てくるようなら、強迫性障害の可能性が高いため、まずは専門医を受診することをお勧めします。
治療は薬物療法(セロトニン中心)、認知行動療法、森田療法が行われています。
症例①での認知療法を具体的に説明すると、まず、そのつり革の手を握る箇所に病原菌が存在するかどうかを考えます。すると、病原菌を手につけた人がそのつり革を握った可能性を考えます。多く見積もっても1/10以下でしょう。次にその病原菌がつり革の握る箇所(プラスチック性の輪)に生き残っている確率を考えます。通常病原菌は生物(培地)の上でないと死滅しますので、プラスチックの上では生き続けることは不可能です。ただ、しばらくの間は生き延びているかもしれないので、生き残っている確率は多く見積もっても1/100以下でしょう。さらにそのつり革を握って、自分の体内へと病原菌が入っていく確率を考えてみましょう。人間の皮膚からは傷がない限り、病原菌が入れない構造になっています。何を外から塗っても皮膚止まりで、体内には入れません。仮に傷口、眼や口内などの粘膜に病原菌がついて体内に入ったとしましょう。その確率も多く見積もって1/100以下でしょう。さらに体内には免疫機能があり、外から体内へと病原菌が入ってきても白血球が病原菌を殺すので、病原菌は死滅します。仮に病原菌が自分の免疫より強くて病気になったとしましょう。その確率も多く見積もっても1/1000以下でしょう。もし病気になっても病院で診てもらえば抗生剤という病原菌を殺す薬があるので、まず治ります。仮に治らなくても失明するなどといった大事に至る確率を考えれば、どんなに多く見積もっても1/1000以下でしょう。するとつり革を手で握って不幸にも失明する確率は、1/10 × 1/100 × 1/100 × 1/1000 × 1/1000 = 1/10億以下 という天文学的な数値になります。宝くじで3億円当てるより難しいかもしれません。それよりも確率の高い不安が世の中にはたくさんあります。交通事故に遭うかもしれない、東海地震がくるかもしれない、 ひょっとしたら外国からミサイルが飛んでくるかもしれません。それらの不安を気にせず毎日、つり革の病原菌のことだけ何度も気にしているのはかなり偏った考えだとわかります。これが認知療法の1例です。
行動療法とは、怖いつり革に嫌でも手で握ることを繰り返し、失明などしないことを何度も実感し、大丈夫だと自信をつけていく方法です。
森田療法とは認知療法と似ていますが、特定のすべきテーマを決めずに、日常生活の中で必要に迫られたことを逃げずにこなしていく、より現実に則した治療法です。
ただし、前述の強迫行為は不安の解消法の1つとも考えられている為、日常生活に支障がでない程度なら、無理に強迫行為をとめる必要はないと私は考えます。不安とは欲の裏返しなので健全な若者は将来への期待(夢)が大きく、その分欲も大きいため、「その夢が実現しなかったらどうしよう」との不安も大きくなり、強迫症状が出やすいものです。
年を取り、現実を知り、身の程を知ると悲しい話ですが、夢が小さくなり、欲も減ります。すると、その分、不安も小さくなり強迫症状も自然とおさまっていくことが多いです。とは言え、1度専門医を受診するのが賢明だと思います。